本来効率的には優れているはずのMT。
なぜAT車のほうが燃費が良くなるのでしょう?
ATの効率は良くない
MTに比べるとATそのものの効率は良くないです。
ATは油圧を発生させるためにオイルポンプがあったり、オイルに浸されたクラッチが多数あったりすることで効率自体はあまり良くないです。
最も効率が良いATはDCTやAMTなどのMTベースのATですが、トルコンAT・CVTとAT自体の効率は落ちていきます。
このあたりはMTに比べると構造が複雑なため仕方のない部分があります。
MTよりATのほうが燃費が良くなる理由
エンジンと合わせて制御できる
MTの場合にはトランスミッションはドライバーが制御していることからクルマが制御できるのはエンジンの部分だけです。
しかしATの場合、エンジンとATを合わせて制御することが可能になります。
これは燃費の面でとても有利で、エンジンをできるだけ効率の良い範囲で動かしつつアクセル操作に合わせてトランスミッションを制御して加速を変化させることができるからです。
特にCVTはこの制御と相性が良く、CVTの燃費の秘密はここにあります。
MTより低回転で走れる
MTの場合、加速に備えてある程度のエンジン回転数を維持する必要があります。
それに対してATではエンジンを低回転に維持していてもすぐにギアチェンジができることからMTよりも低回転で走れます。
また、MTの場合にはあまり低いエンジン回転数では振動が問題になります。
エンジンを低回転で加速させるとパワーに波ができます。
その波が増幅されて伝わるのでMTは低すぎるエンジン回転では加速できないんですね。
振動対策にクラッチ板やフライホイールなどにスプリングも入っていますが、低すぎるエンジン回転は対応しきれません。
最近のATはエンジンが低回転のうちからロックアップクラッチ(トルクコンバーターを直結させるクラッチ)を使ってMTと同じようにエンジンから直接動力を伝えているので同じ問題がおきます。
勿論、ロックアップクラッチにもスプリングが入っていてエンジンからの振動を逃がしてくれるような造りになっていますが、MTと同様に低すぎるエンジン回転には対応しきれません。
しかし、その時に活躍するのがスリップロックアップという制御です。
これはトルクコンバーターを直結させるロックアップクラッチを半クラッチ状態にして振動を逃がす技術です。
これがあるのでATはMTよりも低いエンジン回転数で加速することができます。
さらに、ギア比もAT車のほうが燃費重視のものになっていることが多いです。
クルマはすべてを知っている
MT車を運転していると、どのタイミングでギアチェンジをしたら良いのかということが悩みの一つにあります。
これはエンジンの燃焼状態というのは運転手にはわからないからです。
近年は燃費計が付いているクルマも多いのでそれを目安にするとわかりやすくはなります。
しかし、わかりやすくなっても完全に把握できているわけではありません。
ATの場合はエンジンも合わせて制御していますからそのタイミングで最も燃費が良くなるように燃焼状態も考えて制御されます。
これはMT車ではできないことですね。
とはいえ、最近のクルマではMT車にもギアチェンジのタイミングを教えてくれるインジケーターが付いているクルマが多くあります。
そういったクルマではMT車であってもAT車と同様に最も燃費が良くなるギアチェンジができるでしょう。
AT車のカタログ燃費が良いのはなぜ?
AT車でたまに言われるのが実燃費とカタログ燃費の違いです。
MT車に関してもカタログ燃費は実燃費より良い場合があるのですが、大抵の場合AT車よりも小さいです。
AT車は自動変速ですからシフトチェンジのタイミングを自由に設定できます。
当然カタログ燃費の基準に合わせてある程度チューニングできるわけですね。
ですから、カタログ燃費を計測しているときと同じように走ればカタログ同様の良好な燃費になりますが、大抵の場合で大きくかけ離れた数値になります。
MT車の実燃費が良いのはなぜ?
元々のカタログ燃費”JC08″を計測する際に、MT車は不利な条件でした。
JC08ではクルマの性能に関わらず、ギアチェンジのタイミングが一律で決まっていたからです。
要するに、排気量の大きいエンジンも排気量の小さいエンジンと同じようにギアチェンジしていたのです。
現実的に考えればそんなことはありえませんよね。
そういったこともありMT車のカタログ燃費はかなり不利な条件だったので実燃費との差が小さかったり、カタログ燃費を超えることもあったんですね。
最新のWLTCではクルマの性能に合わせたタイミングでギアチェンジを行うようになったのでMT車にとっては以前よりも有利な条件になっています。
とはいえ、自動車メーカーが燃費を良くするためにギア比とギアチェンジのタイミングをチューニングしているATに比べると、MT車で出来るのはギア比の変更くらいですからMTのほうが”より”実用的な値になります。
つまり、メーカーの弄る余地が少ないので実燃費に近くなる、ということですね。
燃費は走り方や使い方次第
燃費は条件によって大きく変化するものです。
例えば、街中で使うか郊外で使うかという点でも大きく変化しますが、乗り手によっても変わります。
MT車であれば乗り手がどの程度の頻度でギアチェンジを行うか、どのタイミングでギアチェンジを行うか、といった点も実燃費に関係してきます。
つまり、MT車では乗り手の腕や傾向が燃費に大きく作用するということです。
AT車のメリットはクラッチ操作が必要ないことだけではありません。
AT車ではギアチェンジは自動ですからギアチェンジについても乗り手による違いというのは小さくなります。
つまりギアについてわかっていない方でもその乗り方で最大限燃費良く走らせることができるんですね。
基本的に自動車の電子制御技術というのはどんな条件でも対応できるようになるというのがメリットで、ATの場合は乗り手を選ばないことがメリットになります。
知識がなくても、どんなドライバーでも良い条件で運転できるように進化したのが今のAT車なんですね。
まとめ
- AT車はエンジンとATをまとめて制御ができる。
- AT車はMTより低回転で走らせることができるから。
- ATはクルマのすべてを知っている。
- AT車はカタログ燃費に合わせた設計がしやすい。
- AT車はドライバーの腕に左右されない。